りんごMAGAZINE

【りんごよりみち】言葉がなくても「好き」が混ざる街〜DJ・nuと歩く松本〜

  野外音楽フェスなのに、「街」に近いフェス、りんご音楽祭。りんごをきっかけに松本を訪れる人たちに、松本の街をもっともっと楽しんでもらうための本連載「りんごよりみち」。松本在住のりんご音楽祭出演アーティストと街を歩きます。

 第六回のゲストは、松本を拠点に活動するDJ、nuさん。nuさんは、普段は松本市内で会社員として働きながら、仕事終わりや週末にDJとして活動しています。DJの世界に足を踏み入れるきっかけとなった松本の街を一緒に歩きました。

①DJ nuが生まれたきっかけのレコードショップ「MARKING RECORDS」

nuさん 私は、「MARKING RECORDS」でレコードを買ったことをきっかけに、DJをするようになったんです。私は地元が松本近辺なんですが、進学で一度外に出ました。大学を卒業し、松本に帰ってきて働きだした頃にここもオープンして。レコードプレーヤーも持っていないのに、レコードを一枚買ってみたんです。それからプレーヤーを買って、少しずつレコードを揃えるうちに、店主のリコさんが「DJしてみない?」って誘ってくれて。

「MARKING RECORDS」リコさん 当時、私がライブハウス「give me little more.」で「Hungry beats」というイベントを主催していて、なるみちゃん(nuさんの本名)に出て欲しいなぁと思って声をかけました。「Hungry beats」は、バキバキのテクノやハウスミュージックをかけるというよりは、もっとナード寄りなイベントだったんです。インディーロックだったりポップだったり、いわゆるクラブのフロアでかからないような音楽が好きな人たちが集まって、自分の好きな音楽をみんなにシェアする感じ。
 

ーーどうしてnuさんを誘おうと思ったのですか?

「MARKING RECORDS」リコさん この子の選曲を聴いてみたいと思ったんです。好きな音楽の話やお店の話をする中で、彼女の一貫した美意識みたいなものを強く感じていました。なるみちゃんがどんな曲を選ぶのか、単純に私が聴いてみたくて声をかけましたね。それから、当時は同性で、音楽性の近い子が周りにいなかったんです。一緒に何かやれたら楽しそうだなって。

nuさん 私、そんなに音楽の話をしてましたっけ……?

「MARKING RECORDS」リコさん 直接話してはいなかったかも……?でも、会って2回目くらいの時になるみちゃんが自分の作ったzineをくれたんだよ。対面して話しただけではわからない、なるみちゃんの内面が詰まっていて、そこに音楽への想いも書いてあった。しかも、「なにか音楽をやりたい」っていう想いを込めて、CDを模したデザインだったんだよね。それにもグッときちゃって。

ーーnuさんは、DJをしてみないかと誘われたときはどう思いましたか?

nuさん 当時はまさか自分がDJをすることになるなんて思っていませんでした。当時は、DJ=チャラい、イケてる人がするイメージがあったので……。でも、誘ってもらえたのはすごくうれしかったです。DJがしたいというより、一緒に遊びたいと思ってやってみることにしました。DJなら、そんなに会話をしなくても楽しめるから、自分にぴったりかもと思って……。

「MARKING RECORDS」リコさん そうそう。私たち、どちらかと言えばシャイで、最初からめちゃくちゃ打ち解けられたわけじゃないんだよね。でも、音楽っていう共通の好きなものがあったから、そこを介して仲を深めていくのが合ってると思ったんだ。言葉はあとからついてきたよね。

②nuさんお気に入りのセレクト古着屋さん「Dokka」

nuさん「Dokka」は、松本市内にある古着屋さんです。私の私服は古着が多くて、ここで買ったものは私にとって特別なんだけど、たまーに会社にも着て行っちゃう……。店主のチカちゃんとは、まだ今の場所にある「Dokka」ができる前に知り合いました。松本の街で友達と遊んでいたら、自然と出会った感じかな。

「Dokka」チカさん 当時はまだ実店舗を持っていなくて、知り合いのセレクトショップの中でショップインショップみたいな形で古着を販売してました。ここをオープンしてから二年目になります。

ーー「Dokka」ではどういった服を取り扱っているんですか?

「Dokka」チカさん うーん、ヨーロッパ古着、アメリカ古着みたいなジャンルは特になくて。私のその時々のテンションでセレクトした服を取り扱っていますね。

nuさん チカちゃんの服のセレクトって、DJが曲を選ぶのと似てるよね。

「Dokka」チカさん 言われてみれば、たしかにそうかも。「最近のお天気はこうだしな」とか、「あの人、この服好きだろうなぁ」、「この服とあの服合いそうだな」とか……。お店を始めた頃は、お洋服一着ごとに合う曲をinstagramで紹介していたんですよ。曲のストックがなくなってやめちゃったけど(笑)。

nuさん 以前、私が主催した「MW」というイベントで、ファッションショーがしてみたくて店主のチカちゃんを誘ったんです。ファッションショーをしてみたいという気持ちがずっとあって、チカちゃんの服のセレクトがすごく好きだったので、まだ出会ったばっかりだったのに「一緒にやりたいです!」って誘いました。

「Dokka」チカさん 覚えてるよ、すっごく緊張した顔でお店に入ってきたよね(笑)。「あ、なるみさんが来た〜」と思ってたら、「ファッションショーをやりませんか?」っていきなり聞かれたの。それで、私がお洋服を選んで、なるみさんが音楽をかけて、モデルさんが会場を練り歩くっていうイベントを一緒にやったんだよね。二人でサックスも吹いたよね、演奏するの久しぶりすぎてめちゃめちゃだったけど(笑)。

ーー「MARKING RECORDS」のリコさんが、「DJやってみない?」とnuさんを誘ったのと似ていますね。

nuさん  たしかに……。「〇〇がしたい」というよりは、結構「この子と一緒に楽しいことがしたい」がきっかけでイベントの企画をしているかも。松本自体、そういう企画が多い気がします。

③猫がいる路地裏「外濠小路」(そとぼりこみち)

nuさん 仕事の休憩時間は、よく会社を抜け出して散歩をするんです。休みの日のDJイベント終わりも散歩しながら帰ることもあります。ここの路地には結構野良猫がいるので好きです。

ーーあ、ほんとだ。猫がたくさんいますね。nuさんは猫が好きなんですか?

nuさん 猫好き!でも犬も好きです。このあたりは犬のお散歩をしている人が多くて、犬も猫もどちらもいます。あっ、見て、石碑がある。この路地名前あったんだ……。「外濠小路」だって。もともとは松本城のお堀だったのかなぁ。

ーーこんなに細い路地にもちゃんと名前があるんですね。

nuさん 松本は、こういう路地がたくさんあってね、「この道、入れるのか!?」みたいな細い道を見つけるのが楽しい。そういう道を見つけると、とりあえず入ってみちゃうんです。(※道じゃないところは入っちゃダメよ)

④静かに寛げる喫茶店「かうひいや3番地」

nuさん 「かうひいや3番地」は、おじいさんが一人でやってる喫茶店。あんまり店員さんと喋る感じのお店ではないけど、静かですごくいいお店です。

「かうひいや3番地」の店主さん メニューはこちらです。コーヒーは4種類、上からだんだん苦くなります。決まったら声をかけてください。

nuさん 私はルイボスティーを。

ーーnuさんは、ここは一人でよく来るんですか?

nuさん 日記を書いたり、一人でぼーっとしにきたりしますね。それから、行こうとしていたお店がやっていなくて、「どこ行こう」と困った時にここにたどり着くこともあります。松本は、こういう小さい喫茶店が結構あって、「いつもここ!」というよりは気分で来ることが多いかな。

ーー「ぼーっとする」のって、案外難しくないですか?

nuさん 難しい!ぼーっとしてると、ぼーっとしてていいのかな、何かしなきゃって考えちゃう。でも、ぼーっとするのってきっと大事なんだよね。電車とか、移動中はぼーっとしやすくて好きです。散歩をするのも、ぼーっとしたいからかも。

普段は松本市で会社員として働きながら、週末やイベント時はDJとして活動しているnuさん。「MARKING RECORDS」で声をかけられたことから始まった音楽活動についてもじっくりお話を聞きました。

自分が「この曲最高!」と感じているときに、お客さんも盛り上がっていると嬉しい

ーーnuさんは普段どうやって選曲をしていくんですか?

nuさん その時期ごとにお気に入りの曲みたいなのってあるじゃないですか。今の自分の気分とかコンディションとか、あとはイベントの雰囲気を想像して、「こういうイベントだったらこういう音楽をかけたらいいだろうな」っていろいろと練って選曲をしていきます。

ーーDJをしているときは、どういう気持ちなんですか?

nuさん 私は結構緊張しちゃう方だから、ドキドキしていますね。時々チラッとフロアの様子を見ています。自分が「この曲最高!」って感じているときに、お客さんも盛り上がっていると嬉しいです。

ーープレイリストは組んでいくんですか?当日変えることもありますか?

nuさん うーん、セットリストを作ることもあるんですが、それに囚われてしまうと、当日会場の空気が違った時に困ってしまうから、会場でも変えられるようにしています。その時に楽しくできるように、なるべく準備はしていきます。その場で「今この曲がかけたい!」と思った時にちゃんとかけられるように。

ーーnuさんは、普段は会社員として働いていて、仕事終わりの夜や休日にイベントやパーティーでDJをされているんですよね。どちらも両立させるために、気力や体力はどうやって維持しているんですか?

nuさん DJを始めた頃は、誘われたら全部断らずに参加していたので、毎週末イベントがある月もありました。さすがにきついなと思って最近は月一回くらいに抑えています。誘ってもらえるとうれしくなっちゃうから断らずにいたんですが、自分にとって、楽しく続けられるペースを掴んでこれたかな。

一度初心に帰るために、「nu」とは別に「小籠包」という名前を付けた

nuさん 特に、ここ数年のコロナの間は結構しんどくなっちゃう部分があって。イベント自体が減って、外に出る人も減っていく中で、私は音楽が本業でもお店をやっているわけでも医療系でもない。他の人に比べて影響が少なかったからこそ、「力になりたい」という気持ちがあって、呼ばれると「やります!」って応えていたの。だけど、三年も経ってくるとそれが負担になってきちゃって。ちょうどその頃、ラジオ配信のイベントがあったから、初心に帰ろう思って「nu」とは別の「小籠包」って名前を作りました。

ーー「nu」と「小籠包」はどう使い分けているんですか?

nuさん 「nu」としてDJを始めてから、四つ打ち系の選曲が多くなっちゃって。四つ打ちとかクラブミュージックじゃない、インディーズのバンドの曲をメインに選曲しています。DJイベントとか、深夜まで何時間もやっているようなクラブイベントとかだと、DJだけじゃなくて音楽を聴いて踊る人たちも主役だから、来ている人たちのために音楽をかけたい気持ちもある。そうなると、四つ打ち系の曲はみんなが盛り上がるんです。

最初は、自分の好きな曲をかけていたけれど、だんだんそのイベントやお店のことがわかってきて、「みんなが求める選曲をしなきゃ」って余計なプレッシャーも増えた。DJとして活動していけばいくほど、純粋に、自己中に楽しむだけじゃない部分がでてきた。それを考えるのも楽しさではあるんだけど、そこから解放されるために「小籠包」が生まれたのかもしれません。

「やってみたい、できそう!」面倒くさがりやではあるけれど、意外と衝動で動く自分がいる

ーーりんご音楽祭には「nu」として出演されていますよね。りんご音楽祭に初めて参加したのはいつですか?

nuさん アーティストとして出演するようになったのは、コロナの2年前くらいかな。始めは、ステージの転換の時のBGMを担当していました。でも実は、初めてりんご音楽祭に行ったのは大学生の頃なんです。進学で松本を離れてから、松本が恋しすぎて、とにかく松本に帰ってなにかをしたいと思ってりんご音楽祭のボランティアに応募しました。

ーー当時は、音楽に興味があったわけではなかったんですか?

nuさん そうですね、とにかく松本に来る口実を見つけた!という感じでした。自分は当時音楽をしていなかったし、主催のsleeperさんとか松本の音楽関係の人も誰も知りませんでした。知っているアーティストもいないし、友達もいなくて、一人で参加したので結構寂しかったな……。でも、舞台の裏側で荷物番をしたり、出入りする人を見たりするのは、初めての体験で面白かったです。

ーー「松本に帰りたい」という気持ちだけで、一人でボランティアに参加したのはなかなかバイタリティがありますね。

nuさん うーん、たしかに。「ファッションショーやりたいです!」っていきなり言いに行ったりね。でも、そうしないと、できないから。あんまり難しいことはできないけれど、「できそう!」って思ったらやっちゃう。そういう衝動で動く部分は、自分でも不思議です。でも、面倒くさがり屋な面もある。面倒なことも「やりたい、できそう!」ってなったら動けるのかな。

ーーそうすると、DJはnuさんの中でずっと続いている衝動なんですか?

nuさん 最初の頃よりは多分薄れてきているけど……、でも、DJは友達との交流の手段としての一面が一番大きいのかもしれない。DJとか、音楽関係の友達って、イベントのときだけ会えるというか、普段はあんまり会うことがないし、じっくり話したこともないから、どこか不思議な関係かもしれないです。でも、私はそういう関係の方が好きかも。

自分に取ってDJは、言葉を使わないコミュニケーションツールの一つ

nuさん 自分がDJをしなくなっても、イベントに遊びに行けばみんなに会えるだろうけど、「イベントをやっている子たちと一緒に作る時間」みたいな感覚もあるから、DJをやめたらみんながちょっと離れた存在みたいになっちゃう気がします。それに、自分でDJをするとなるともう少し能動的というか、自己表現も入ってくるから、ただイベントに参加するのとはコミュニケーションの取り方が変わってくるんです。

ーーコミュニケーションとしての自己表現ということですか?

nuさん はい。DJって、他人の曲をかけているだけなんだけど、それでもやっぱりそのときの自分の気持ちやテンションがこの曲に近いなとか、質感を曲に反映させている部分が大きいです。私は、コミュニケーションの取り方の中では、そういうふうに何かを表現するのが好きなのかもしれないですね。自分の言葉で、直接何かを言うのがあんまり得意じゃないというか、うまくできないんです。代わりに、自分の気持ちを曲にのせて出していく方が自然にできる。

ーー他のDJのパフォーマンスを聴く時も、その人の内面を聴く気持ちで聴いていますか?

nuさん 他の人のことも、そういうふうに見ているかもしれません。この人は、今こういう気持ちなのかなとか考えるし、自分にとって、DJのパフォーマンスを聴くのはその人の家に遊びにいくみたいな感覚があります。

ーー家、ですか?

nuさん そうそう。人のお家に行って、家具とか本棚を見て、「この人はこれが好きなんだ」ってわかる感覚。それに、私が観ていてうまいなと思うDJの人は、喋るのが上手みたいな感覚も受けるんです。曲の繋がり方とかまとめ方、緩急の付け方が上手だと、その人のおしゃべりを聴いている気持ちになって、ワーッて盛り上がる。私にとってDJとはそういう自己表現のツールで、言葉を使わないコミュニケーションができることが楽しいのかもしれないです。

ーーnuさん、今日はありがとうございました。また松本の街で会いましょう!

追伸

実は、このインタビューをしてもらってからしばらくして、DJ活動はおしまいにすることに決めました。私の中ではけっこう行けるところまで来てしまって、次のステージへ進むために、いったん身軽になろうと思いました。この先はマイペースに人と関わったり関わらなかったり、本を読んだり旅をしたりする時間を大事にして、nuとしてDJとは違った自己表現ができるといいな。

こんな例えが頭に浮かんだので、書いておきます。

「私は、あるとき偶然手に入れたバイクで色々な場所を旅して、素敵な人たちと出会ってきた。バイクを持っているとそれが色々なところに連れて行ってくれた。初めは勢いよく走っていて気にならなかった砂利道が最近はどうも疲れてきてしまい、途中でひどい嵐にも遭遇しつつ、ゆっくり走ったりなんとか少しずつでも前に進めてきたけれど、とうとう転んで車体を起こそうにも重くて立てられなくなってしまった。ふと周りを見渡すと、他にも道がいくつか見える。このバイクがあっては通ることができない、木が鬱蒼と茂った森の小道に目が止まった。そこは木陰で涼しそうで、この先に何かがありそうで、歩いてそちらへ行ってみることにした。これまでの旅で出会った人たちがいる場所はちゃんとわかっている。ここからそんなに遠くないから、寂しくなったら森のお土産を持って会いに行こう。」

と、こんな感じ。今年のりんご音楽祭がDJとしてのnuは最後になります。「森のお土産」が何なのか、私もまだよくわからないけれど、もし見つけることができたら受け取ってくれる人がいますように!

nu

nuさんのおすすめスポット
・MARKING RECORDS
・Dokka
・外濠小路
・かうひいや3番地

▽「りんごよりみち」オススメマップはこちら

取材・執筆:風音
撮影:Naka Hashimoto

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