りんごMAGAZINE

【りんごよりみち】「この街は優しくてカラフル!」〜画家・Jと歩く松本〜

 野外音楽フェスなのに、「街」に近いフェス、りんご音楽祭。りんごをきっかけに松本を訪れる人たちに、松本の街をもっともっと楽しんでもらうための本連載「りんごよりみち」。松本在住のりんご音楽祭出演アーティストと街を歩きます。

 第四回のゲストは、松本を拠点に画家として活動するJさん。りんご音楽祭には、毎年ライブペインティングで出演しています。東京出身のJさんは、松本を拠点に活動する「海リリリ」の一員として松本にやってきました。それまで一人で描き続けていた絵を、世に出すきっかけとなった松本の街を一緒に歩きます。

①極彩色でカラフルな「深志神社」

Jさん おはよ〜。今日やばいね、めっちゃ天気いい。空とか超青いよ。
 
ーーおはようございます。ほんとですね。Jさんは、普段日中は何をしてるんですか?

Jさん ん〜、散歩したり、絵描いたり、ぼ〜っとしたりだね。深志神社は、家からめっちゃ近いからよく散歩に来るんだ。こういう色味の神社ってあんまないよね。神社なのに超カラフルだから好きなんだ。周りに生えてるツツジの花はピンクで、空はめっちゃ青い。うん、カラフル。

ーーたしかに、極彩色な神社ですね。

Jさん ね。ここは芸術の神様とも言われてるらしいよ。俺の家、この神社のすぐ近くなんだけど、飲みすぎた帰り道にここに来て酔っ払って境内の木に話しかけたりしてたなぁ。そこの湧き水も汲んでよく飲んでるんだ。うまいよ。

ーー深志神社の手水舎の水は、飲める水なんですか?

Jさん どうだろう。でも「飲料水じゃありません」って注意書きがないから飲めるんじゃないかな。きれいそうな水だし、腹壊したことはないよ。松本は空気も水もうまくていいよね〜。

ーーJさんは、松本出身なんですか?

Jさん 地元は東京だよ。高井戸ってところなんだけど、山はないけど畑がたくさんあってのほほんとしてた。松本はその空気感がある。松本は、まじで川がきれい!東京とか、川って臭いものだったもんね。夏に、松本の川沿いを通るのとか超きもちいいよ。松本にきたばかりの頃はピザ屋で宅配のバイトしてたんだけど、しょっちゅう川沿いの道を走ってたな〜。

②新鮮な野菜メニューがおいしい!「お野菜居酒屋 旬菜心粋(しゅんさいこいき)」

Jさん 「心粋」は、俺が働いてる居酒屋だよ。働きだしてからもう5年くらいになるかな。普段は厨房にいる。

ーーりんご音楽祭の運営チームの打ち上げで何度かきたことがあります。お野菜がおいしいですよね。

Jさん そうそう。うち、居酒屋だけど農園もやってるんだよね。コロナで居酒屋の営業ができない間は、俺も畑の方を手伝ってた。畑で育った野菜を引き抜くじゃん、色とか太さとかがやばいんだよ。「生きてる!」って感じがする。ああいうものを食べていれば、人間みんな健康になれるんじゃないかと思うね。

ーーJさんは、料理のお仕事をずっとされているんですか?

Jさん そういうわけでもないよ〜。東京にいた時は、居酒屋とかで料理人をしてたんだけど、松本に来てからは料理人だとは言ってなかった。公言すると、声がかかって仕事が増えちゃうでしょ。ずっとピザの宅配のバイトしてたな。「心粋」で働き始めたのは、その時付き合ってた彼女に紹介されたのがきっかけだね。ホールの方が絶対楽だと思ってたんだけど、なんだかんだ厨房に立つようになって、ずっと働いてるなぁ。ここの人はみんな優しいよ。というか、松本の人はみんな優しい。

ーー優しさを感じたエピソードはありますか?

Jさん たくさんあるよ。ピザの宅配バイトとか、クビになってもおかしくないこと何回もあったもん。ピザ持ってくの忘れたままお客さんの家ピンポンしちゃったとか、イベント続きで疲れすぎててバイト中に仮眠してたら夜になってたとか……。でも、正直に謝ったら許してくれた。うん、どこの職場もみんな優しかったなぁ。

③音楽、ダーツ、お酒。深夜でも遊べるバー「SWITCH」

Jさん 「SWITCH」は、俺の仕事が終わるのが夜23時すぎだから、そのあとに遊びに行けるところを探してたら見つけた。深夜まで開いてて音鳴らしてるお店は他にもいくつかあるけど、他の所はEDMが強めだから、DJバー的にレゲエとかヒップホップ、ディスコ、いろいろ聴けるのは「SWITCH」しかない。

ーー「SWITCH」さんは、りんご音楽祭にも出店していますよね。去年お酒を飲みに行きました。

「SWITCH」Kentoさん りんごには、5年前くらいから出店してるね。出店して、夜は街に戻ってきて深夜まで店開けて、また翌日出店して……って感じだから大変だよ。でも、りんごの会場で仲良くなった人とか、他の出店者なんかが店にも遊びにきてくれて楽しいね。

Jさん Kentoとは、最近俺の絵の個展で一緒に沖縄にも行ったんだよ。俺さ、沖縄明けからちょっと具合が悪すぎるんだ。たぶん、飲みすぎで内臓がもう終わってるんだと思う。飲み屋でする話でもないけどさ、最近は前よりも酒飲むの控えてる。 Kentoも、しばらく旅に出るんでしょ?

「SWITCH」Kentoさん そうそう。この先どうしようって考えた時に、やりたいことをしなきゃなって。お店をスタッフに任せて、一年間くらい世界一周に行くつもり。

ーーやりたいことをしなきゃと思ったのはどうしてですか?

「SWITCH」Kentoさん まだ体力もあるし、全然毎日飲めるし遊べるけど、このままでいいのか?って考えるところがあって。もう若い子についていけないっていうのもあるなぁ。店は残しておきたいけど、自分のすることはステップアップしていきたいなと思ってる。

Jさん テキーラをめちゃくちゃ飲むカルチャーってあるじゃん? Kentoは、ある意味その流れを作ってる張本人なわけで、「飲む」シーンからは逃れられない。毎日死ぬほど飲んで、考える余裕もないまま時間が過ぎちゃうなら、旅に出た方がいいよね。

「SWITCH」店内にはJさんの絵がいくつも飾られています。

「SWITCH」Kentoさん もちろん、好きで飲んでるんだけどね。日々酒に追われてる感覚はあるね。体力というか、寿命の前借りをしてる。

Jさん 土曜日にイベントで飲みまくると、次の日せっかく休みでも作品とか音楽を作る余裕がない。二日酔いで苦しんでる間は思考も働かないしさ。俺が飲まないとみんなつまんないだろうなとも思うし、飲みの場にはもちろん全力で向き合うよ、でも、今は自分にできることがせっかく増えてるんだから、そっちに手をかけないと勿体無いよね。

「SWITCH」Kentoさん やっぱり、乾杯できないのは寂しいからね。そこはバランスだよね。

Jさん 多分、今が考えなきゃいけないタイミングだよね、きっと。もしさ、俺が飲み過ぎで既にすい臓がんになってて、残りの寿命が短いって考えたら、俺のしたいことに対して全然時間が足りないんだよね。俺の人生、まだまだやりたいことがありすぎる!

④Jさんの画家としての原点・カルチャーショップ「The movie stand. 《NAVY》」

Jさん 「NAVY」は、俺が絵描きになったきっかけの店なんだ。それまでも一人で絵を描いてたんだけど、ここで個展をさせてもらったのがきっかけで、自分の描いた絵を世に出すようになった。キヨとは、「SWITCH」のケントと3人で俺の沖縄個展も一緒にやった仲なんだよ。

NAVY キヨさん 俺がまだサラリーマンをしていた頃に諒一(Jさんの本名)が東京から引っ越してきて、「海リリリ」のOZYを通じて「こいつのことよろしく」って紹介されて仲良くなったんだよね。

ーーここはJさんの原点なんですね。NAVYはなんのお店なんですか?

NAVY キヨさん 古着もあるし、自分で作っている服もあるし、名古屋や東京から仕入れてきているブランドの服を扱っています。いろいろ混ざってる感じだね。ふざけてるものとヴィンテージ、どっちもある。俺は、どっちかに偏らずに中間を行きたくて、全部を詰め込んでる。

ーーお店にはどういうお客さんがきますか?

NAVY キヨさん 一番多いのは20代後半の子達だけど、中学生から70代のおばあちゃんまで、年代は幅広いよ。冬はスノーボーダーたちが来たり、夏はアメ車とかバイク好きなやつらが多かったり。俺が音楽のイベントをしているから、ラッパーとかDJもくるし、いろいろなカルチャーが混雑していて、中間地点みたいな感じかな。バイカーとDJとラッパーが外でタバコ吸ってることもあるし、そういうのがおもしろいなと思ってる。

ーーNAVYさんは、2022年のりんご音楽祭でアーティストのブッキングもされていましたよね?

NAVY キヨさん そうそう。俺は音楽のイベントのオーガナイザーもしているから、sleeperさんから「りんごでもアーティストのブッキングできないか」ってお願いされたんだ。りんご音楽祭にはもともとお客さんとして行っていたんだけど、一緒に何かやったのは去年が初めてだよ。

俺は、誰かと一緒に仕事するのが苦手で、全部自分でやる方がいいんだよね。いろんなお店からコラボしないかって声がかかるけど、全部断ってきた。でも、そんな中で諒一と個展をしたり、一緒に服を作るうちに、いろんな人と仕事ができるようになってきたな。

ーーりんごのブッキングも、Jさんがきっかけだったんですね。全部一人でしてきた中で、Jさんの個展をNAVYでやろうと思ったのはどうしてだったんですか?

NAVY キヨさん うーん。俺、上下関係がすごく厳しい中学校に通っててね。その名残で、年上の人には絶対に敬語が外れないんだ。諒一は俺より年上なんだけど、俺のことを「松本の先輩」って呼んで絡んでくれて、不思議と敬語が外せた。諒一は、自分の中にあったガチガチの部分を超えてきてくれたんだ。

ーーこれなら仕事も一緒にできるかも、と思ったんですね。

NAVY キヨさん そうそう。「NAVY」を始めたばっかりの頃に、諒一が絵を描いてるのを知って。当時はうちも3日に1人お客さんがきたらいい方だったから、「一緒に盛り上げよう」ってここで個展をやったんだ。そしたら、4日間通しで200人くらいお客さんがきてくれた。それから、松本の人に絵描きとしてのJが認知されるようになったし、諒一自身も、これまで趣味で描いてきた絵が、仕事になるってわかった瞬間だったんじゃないかな。

ーーところで、キヨさんはJさんのことを名前で呼ぶんですね。

NAVY キヨさん そうだね。俺は、諒一が絵描きとして「J」になる前の、ピザの宅配バイトをしてた何者でもない頃から仲がいいから。俺の中ではずっと諒一なんだ。

りんご音楽祭ではライブペインティングを行い、松本市内外で画家として活躍するJさん。NAVYをきっかけにはじまったアーティストとしての活動について聞きました。

東京で働いていても気持ちが晴れず、コントをするために松本へ

ーーJさんの「J」という活動名はなにか由来はあるんですか?

Jさん 俺が松本に来てしばらくしてから、OZYに呼ばれて、「お前に松本ネームを授ける」ってつけてもらった。それがそのまま絵描きとしての名前になったね。

ーーOZYさんは、Jさんが所属している「海リリリ」のリーダーなんですよね。Jさんが東京から松本にやってきたのは、「海リリリ」の活動のためですか?

Jさん そうそう。東京で学生してた時に、「海リリリ」と仲が良かったの。「海リリリ」は当時大喜利配信とかをやってて、俺もよく一緒に遊んでたんだけど、みんな大学卒業して松本に帰っちゃった。俺は大学を途中でやめて、東京で普通に働いてたんだけど、なんか気持ちが晴れなくて。それで、やりたいことをしようと思って、「みんなでコントやろうよ!」って、「海リリリ」がいる松本に来た。

ーーお笑いをするために上京はよく聞きますが、Jさんは逆にお笑いをするために東京から松本にきたんですね。

Jさん そうそう。当時のメンバーが、松本とか穂高にいたから、俺が松本にいた方が活動しやすいと思って。こっちに来てからは、ホールを借りて二時間半とかのコントをしたり、DJイベントの前座的にコントをしたりしてた。リーダーのOZYとか、バンドやってるメンバーが多かったから、自然とクラブとかライブハウスでもコントをすることになったね。りんごも、最初はコントで出てたんだよ。

絵は、自分のための「お守り」だった

ーーJさんは、今はライブペインティングでりんご音楽祭に出演していますよね。絵はいつから描いていたんですか?

Jさん 実は、18歳ぐらいの時から絵を描いてた。でも、自分の中から溢れたものが絵になっていっただけだから、人に見せたいみたいな気持ちはなかったな。

ーー自分の中にあるものをアウトプットしたのが、たまたま絵だったと。

Jさん そうだね。だから、何を描きたいか悩むことはあんまりないなぁ。基本的には、アメコミみたいな、アウトラインがきれいな絵が好き。でもちょっと写実っぽい絵を入れないと見てもらえないから、ずっと絵の練習をしてるよ。

松本って、そこまで「絵を見る」っていう土壌が整ってるわけじゃないから、まず普通に絵が上手くないと評価してもらえないんだよね。俺は、アウトラインがはっきりしていて、でも抽象的な絵が描きたいんだ。でもそれだけやっていても伝わらないから、練習を続けるうちにいろんな絵が描けるようになってきた。

ーーJさんは、もともと自分のために描いていたところから、「NAVY」で個展をして、自分の絵に値段がついて、人の手に渡るようになっていったんですよね。その変化はどう感じましたか?

Jさん うーん。なんで俺の絵に価値をつけてくれるんだろうって不思議だったね。今でも、なんで俺の絵を欲しがってくれる人がいるのかはよくわからない。ありがたいけどね。今は、時給換算とか画材のお金とかいろいろ考えて、「これくらいです」って自分の絵に値段をつけられるようになった。でも、俺は今でも自分の絵はあんまり人にあげたくないんだよ。

「俺は俺のできることをすればいい」松本に来て、安心できる仲間ができた

ーー自分の絵を手放したくないのはどうしてですか?

Jさん 全部好きだから。自分で描いた絵は、全部ばーっと壁に貼って自分で見ていたいよ。さっき、もともと自分の精神衛生のために絵を描いてたって言ったでしょ? 俺はずっと怖かったんだよね。夜とかさ、部屋に一人でいると怖くなるじゃん。だから俺はお守りとして絵を描いてたの。だから、俺の絵は明るい絵が多いんだ。その根っこはあんまり変わってないかも。

ーーJさんは、松本に来てから「J」という名前を与えられて、今はその名前で活動していますが、自分自身と、アーティストとしての「J」はどういう関係性ですか?

Jさん 「J」だけ一人歩きしてる間はすげぇあるよ。ギャップはある。俺はもともと根暗で、どっちかっていうと表立って何かするタイプじゃないし、そんなに喋らないんだよ。でも、松本のみんなが思ってる「J」は、めっちゃうるさくて、酒飲みで破天荒。でも、それがつらいとかはないかな。「俺って、そういう一面もあるんだね」って感じ。

ーー別人格ではなく、自分の新しい一面なんですね。自分のために絵を描き続けていた頃と、表に出るようになった今で、絵に対する気持ちの変化はありますか?

Jさん 変わった!一番最初に「NAVY」で個展をしたときは、何を描いてるのかわかんないものばっか描いてたんだよね。でも今は、誰が見てもこれが何の絵なのかわかる絵がかける表現力が身についたし、誰かが見て喜ぶものを前提として描くって決めてる。でも、なんでも混ぜたいって部分は変わってないかも。

ーー混ぜる?

Jさん うん。アメコミっぽいのも、イラストも、写実も、抽象も、全部混ぜたい。絵だけじゃなくて、仲いい奴もそう。Kentoもキヨも、好きな音楽も好きなことも、俺とは全然違う。まったく違う色を持ってる。交わる瞬間はなかったはずだけど、「自分と違っても否定はしない、肯定する」っていう考え方が一緒だから混ざれたのかも。……やばい、ちょっと泣きそうになってきた!

Jさん 松本では、みんなが年齢とか職業とかをいろいろ飛び越えて混ざり合って、でもそれぞれの役割を全うしてる。Kentoとキヨと三人で行った沖縄も面白かったなぁ。俺は絵を描いて、KentoはDJをして、キヨは沖縄のアーティストを連れて飲みに来てくれて……。安心感がすごいんだ。他の奴らが、やるべきことをやってくれるから、俺はただずっと描いていればいい。「あいつなら任せられる」って奴が近くにいるのって、すげぇことだよ。そういう仲間ができたのが、松本にきて一番よかったことだなぁ。

ーーJさん、今日はありがとうございました。また松本の街で会いましょう!

Jさんのおすすめスポット

・深志神社
・旬菜心粋
・SWITCH
・The movie stand. 《NAVY》

▽「りんごよりみち」オススメマップはこちら!
https://goo.gl/maps/9mZRSz8qCBxFL9SHA

<Jさんの個展が松本市内で開催予定!>
9/7(木)〜9/10(日)12:00〜20:00
https://instagram.com/oooooorrrrrrriiicccciiiiiii?igshid=YmM0MjE2YWMzOA==
The movie stand. 《NAVY》
長野県松本市深志二丁目8-12

取材・執筆:風音
撮影:Naka Hashimoto

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