「『ふつう』とされているものと、自分を比べなくてもいい」作家・雪下まゆと振り返る、ステートメントポスターの制作秘話
りんご音楽祭運営メンバーや出演者をゲストに迎え、りんご音楽祭の魅力や楽しみ方を紐解いていくりんご音楽祭公式podcast「ココが変だよ!りんご音楽祭」。
第18回のゲストは、りんご音楽祭主催者・dj sleeperと、作家の雪下まゆさん。雪下まゆさんは、過去のりんご音楽祭にDJとして出演しており、今年度はステートメントポスターのビジュアルを手がけています。お相手を務めるのは、2001年生まれのフェス初心者、長崎航平。根掘り葉掘り、りんごの魅力を探ります。
2人の出会いからポスター制作の裏話、りんご音楽祭の楽しみ方や松本の魅力まで、じっくりお話を聞きました。
雪下まゆ:作家。写実的でありながら、デフォルメとラフなタッチを残した個性的な画風で人気を集める。
これまでに、2022年本屋大賞受賞作品『同志少女よ、敵を撃て』/『六人の嘘つきな大学生』、『傲慢と善良』、東京モード学園TVCM、といった広告・装丁などその活動は多岐に渡る。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024」選出。また、2020年に立ち上げたファッションブランド「Esth.」のデザイナーを務める。
沖縄旅行がきっかけでつながった2人の出会い
長崎 はい、始まりました。podcast「ココが変だよ!りんご音楽祭」。毎度ゲストの方をお招きして、いろいろお伺いしているんですが、今回はゲストをお2人お呼びしています。
sleeperさん はい、りんご音楽祭主催のdj sleeperです。
雪下まゆさん 作家の雪下まゆです。よろしくお願いします。
長崎 よろしくお願いします。今年のりんご音楽祭はビジュアルが2種類あるんですが、その内の1つをまゆさんに担当していただいています。そこで今回はその裏話を聞いていければなと。そもそも、sleeperさんとまゆさんはいつ頃から交友があるんでしょう?
雪下まゆさん 友達と沖縄旅行をしたときに、たまたま当時sleeperが運営していた「on」っていうお店に行って。そこで店長の鷲巣さんから、「今度東京でイベントやるからおいで」って誘われて、遊びに行ったらsleeperを紹介された、みたいな感じだった気がします。
長崎 鷲巣さんは、昨年「ココが変だよ!りんご音楽祭」に出演してくださっていますね。まゆさんが沖縄を訪れたのは何年くらい前の話ですか?
sleeperさん 鷲津くんが「on」の店長をやっていた頃ってことは、2017年ぐらいじゃない?
長崎 そこからどういうふうにりんご音楽祭に結びついていったんですか?
雪下まゆさん りんご音楽祭と関わるようになったのは、出演者としてライブペイントをやらせてもらったのが最初ですね。ライブペイントは自分の絵のスタイルに合わないなと思うようになってやめたんだけど、3年前くらいにDJをはじめてからはDJとして出演させてもらうようになって。
sleeperさん そうだね。あと俺が東京にしょっちゅう行ってはパーティーをやっていたから、「またおいでよ」みたいな感じで誘ったら来てくれた。
雪下まゆさん そうだね、東京のイベントでもライブペイントやらせてもらったりして。
sleeperさん 「瓦祭」にも来てくれたよね? 「瓦祭」っていうのは、俺が松本で運営していたパーティーハウス「瓦RECORD」の周年イベントなんだけど、24時間ぶっ通しのパーティーをやってたの。初めて来てくれたとき、まゆちゃんは12時間以上寝てたんだよね。「全然いいんだけど、せっかく来たのにそれでいいの!?」ってびっくりして。
雪下まゆさん そうだったね(笑)
sleeperさん 初めて来た場所で12時間寝るって結構すごくない?俺、それで「すごいマイペースな子だな、素晴らしい!」って思ったんだよ。
「ふつうじゃなくたって誰も気にしないよ。平気だよ」と伝えたかった
長崎 今回のポスターをまゆさんにお願いしたのにはどんな経緯が?
sleeperさん 前からりんご音楽祭のアートワークのポスターをまゆちゃんにお願いしたいって話はしていたんだよね。りんご音楽祭は、毎年その年のテーマを考えてから、それに合わせてあらゆるデザインやアーティストのブッキングを全部進めているんですが。今年のテーマがまさにまゆちゃんにぴったりで。
長崎 そもそも今年のステートメントにはどんな思いが込められているんですか?
sleeperさん 僕は1対1のコミュニケーションがすごく好きなんですよ。ちっちゃい頃から、3人以上になると急に話がつまんなくなるなって思ってて。3人以上になると、2人では言えたことを急に言えなくなったりする。TPO的な共通項を探しちゃうというか。だから、1人1人は仲良くても、「みんなで遊び行こうよ」ってなると、「俺はいいや」みたいなことが昔からよくあった。
長崎 あぁ、それ僕もめっちゃわかります。僕も大人数でご飯食べに行ったりするのが結構苦手で。ちょっと場が何か温まってきて、1 on 1の空気を作れるようになったらめっちゃ楽しいんですけど。最初の何となく話す感じは相当苦手ですね。
雪下まゆさん 私も大人数の場、苦手です。
sleeperさん そうそう。なんかそれって、誰も得してないじゃんって思うわけ。例えば、「今日は何かの式典なので、こういうことはやめましょうね」って話ならそれはそれでやればいいんだけど、ただ10人で飲みに行ったときでさえそういう空気が生まれる。人の表現とか感情をかなり抑えているというか。
長崎 ありますね、わかります。
sleeperさん 「こうした方がいい」みたいな基準って、ほぼあってないようなもんなのに、なにかしらあるじゃん。こんなに不確かな常識のために、せっかくその人の個性とか魅力的なものを抑えるのって本当によくないなって。もちろん、必要な常識だったり、マナーは守った方がいいけどさ。
雪下まゆさん うんうん。
sleeperさん 特に、コロナ以降はそれをどんどん感じてきて。コロナで「駄目」って言われることが多すぎて、みんなが萎縮してることさえ気づかないぐらい萎縮して、それが助長されまくってて……。だから今年は「別に平気だよ」ってことを表現をしたいなって。
長崎 そういう背景があったんですね。
sleeperさん 良くも悪くも「自分のことなんてみんなそんなに気にしてないよ」ってこと。俺が何かやったって結局はスルーされて終わりっていうか、いじられもしないかもしんないし、ただ時間が通り過ぎるだけなんだよ。たとえ「ふつう」じゃなくたって、誰も気にしてないし、大して見てない。だから、自分を解放しても、何をやっても、2人のときと変わらないよ!平気だよ!ってこのステートメントを通して伝えたかった。
<2025年度のステートメント>
『あなたは私の二番目に好きな人』
大きい絵を何枚も何枚もずっと描いてる人がいたんです。
正直、良くはないなと思っていて、周りもそんなふうに感じているようでした。
でも、筆を動かすその人はすごく楽しそうで、
それを見ているうちに「ああ、幸せってこれだよな」としっくりきたのを覚えています。
幸せかどうかに他人の評価は関係ないはずなのに、
ついつい気になっちゃうのはなんでだろう?
「ふつう」とされてるものと自分を比べてしまう。
これ、もう辞めたい。
せめて楽しいパーティーの間だけでも。
褒められるような人生じゃなくても良いじゃん。
僕の成功や失敗も、昨日の夢も、今、実は機嫌が悪いのも、
本当は誰も気にしていないんだから。
私がわたしを一番好きでいたい。
あなたは私の二番目に好きな人。
「あなたは私の2番目に好きな人」というタイトルが決まった瞬間
長崎 「あなたは私の2番目に好きな人」というタイトルはどうやって決まったんですか?
sleeperさん 「褒められるような人生じゃなくてもいいじゃん」とか、「他人を介在させない幸福論」「幸せは他人に委ねない」とか、いくつか案があったんだけど、どれもしっくりこなくて。そんなときにね、たまたま松本のあるお店で、シンガーソングライターが集まって歌詞を批評し合う地獄みたいなタイミングに居合わせたんですよ。誰かが歌っては、「今の歌詞のここはどういう意味?」とか批評し始めるわけ。
雪下まゆさん ストイックだなぁ。
sleeperさん 俺はそれをただ聴いてて。そこで、みちるちゃんってシンガーソングライターの女の子が「人類の秘密」って曲を歌って。その曲に出てくるのが、「あなたは私の2番目に好きな人」っていう歌詞なの。俺はそれを、「私は人を好きになると、その人のことを1番にしてしまって、自分を大事にできていなかった。でも、あなたに出会って、私は私を1番好きなまま、あなたを好きでいられる。だから、あなたは2番目に好きな人」って解釈したの。
長崎 お~、なるほど。
sleeperさん 「素晴らしい歌詞だ!」と思ってたら、みちるちゃんの旦那さんの岡沢じゅんくんが、「俺が一番じゃないの?」ってワナワナしてて。だから俺はそこで批評大会に参加して、「これって最上級のラブソングじゃん!」って言ったの。そのときに、「俺が今年のりんご音楽祭で伝えたいのってこういうことじゃん!ぴったりじゃん!」って。それでみちるちゃんに、歌詞をタイトルに使わせてもらえないかってお願いして、ステートメントが完成した。
長崎 今年のステートメントが決定したミーティングに僕も参加していたんですが、その時点でsleeperさんは「これはまゆちゃんの絵でいこう!」と言っていましたよね。それはどうしてだったんですか?
sleeperさん なんかね、まさにまゆちゃんって、2人で遊んでるときと、周りに人がいるときで全然違う子だなってずっと思っていて。「2人でいるときのままで全然平気なのに」っていつも思っていたからこそ、このテーマはまゆちゃんにお願いしたかった。あと、俺はまゆちゃんが描く「目」が好きなの。まゆちゃんの描く目の雰囲気と、今回のステートメントで伝えたい、ちょっと言語化できない「目から伝わる感覚」みたいなことが合致していて。だからパッとまゆちゃんが浮かんだんです。
長崎 まゆさんはそれをどう受け止めたんですか?
雪下まゆさん 「めっちゃわかる」と思って。特に私は、TPOとか集団がどうっていうところよりも、「『ふつう』とされてるものと自分を比べてしまう」っていうところがすごくわかって。以前は「大多数の人ができることを自分はできない」と結構悩んだりすることもあったので。
長崎 そうだったんですね。
雪下まゆさん でも最近は、自分の失敗とか駄目なところも「そんな大したことじゃないよ」と笑ってくれる友達が増えたので、無駄な自意識の暴走みたいなものが無くなってきたというか。「本当に大したことじゃないんだな」と思えるようになって。このステートメントも、最後の方になるにつれていい意味での開き直りみたいな感じになっていくと思うんですが、この変化の流れもすごく自分に当てはまるなと共感できたので、「ぜひ」とお受けしました。
あえてスケッチの線画を残すことで、「未完成」さを表現
長崎 sleeperさんの思いは確実に伝わっていたわけですね。改めて、今回の絵について解説していただいてもいいですか?
雪下まゆさん このステートメントって「覚悟」というよりは、日常の中でふと思う感覚なのかなと。「こういうふうに自分が変わってきたな」「こういう考えになってきたな」と思っている瞬間なのかなと感じたので、日常のワンシーンを切り取った光景を描きたいなと思いました。完成した絵は、車の中で音楽を聴きながら窓の外を眺めて、「自分の考え方が変わってきたな」と考えてる女の子のイメージです。
sleeperさん 6種類くらいラフを送ってくれたんだけど、このラフが送られてきてすぐに「これがいいじゃん!」って決まったよね。鉛筆の線が残っているのもいいよね。
雪下まゆさん そうそう。これはあえて好きなスケッチの段階の線画を残していて。ステートメントの中に「不完全」というテーマが入ってたので、あえて残したら面白いし、目を引くかなって。
長崎 さっきsleeperさんが「まゆさんの描く目がいい」という話をしていましたが、僕もこの絵を見たとき、最初にこの女の子の目線に目が行ったんです。めちゃくちゃ力強い眼差しだとか、こっちを見ているわけではないけど、「この目線の先には何があるんだろう?」と。
雪下まゆさん ありがとうございます。これはあえて陰で目元が暗くなるようにしていて。そこに窓の光が反射して、目のハイライトが光ってるという感じにしたんです。「力強い何か」とかではなくて、「徐々に変わっていく景色」みたいなものを見つめている自然な眼差しにしたくて。こういう落ち着いた眼差しにしました。
長崎 この絵の女の子は、誰か特定の人をイメージして描いているんですか?
雪下まゆさん このステートメントに関しては、自分自身がすごく共感したので、「自分らしさ」みたいなのものも出しつつ、自分のなかで想像した女性を描きました。
絵とDJ、それぞれの表現から得たことが繋がって循環していく
長崎 ここからは、りんご音楽祭についてもお聞きしたいなと。まず、まゆさんはDJとしてりんご音楽祭に出演されていますよね。絵とDJ、その2つはまゆさんの中ではどういう位置づけなんですか?
雪下まゆさん DJ以外にも、アパレルをやらせてもらったりしたこともあって。絵以外のことをやることで、自分の感覚みたいなのが循環していく感じがあるんです。音楽をやると、また別の表現の仕方みたいな何かが新しいものとして自分のなかに入ってきて、相互作用が起こるみたいな。
長崎 なるほどなるほど。
雪下まゆさん 絵って、家の中で1人で描くじゃないですか。個展とかで発表したときに、初めて人の反応をもらう。でもDJって、その場にお客さんがいて、自分の作品というか表現みたいなものを発表する。その場の感じが全然違って、新鮮で楽しいんですよね。
長崎 逆に、その違いによる難しさや、目の前に人がいてすぐ反応がわかってしまうことへのイヤさみたいなのもありますか?
雪下まゆさん イヤというか、最初はすごい緊張していました。人前に立つことに慣れていないから、ド緊張して叫びまくってました。
sleeperさん そうだったの!? DJブース内で?
雪下まゆさん 初めてDJをしたときは、鷲巣さんたちが「大丈夫大丈夫、落ち着いて」って励ましてくれて。最近はだんだん慣れてきて緊張もしなくなってきました。やっぱり、「自分はこれが苦手」とかじゃなくて、何回も積み重ねてやることが大事なんだなって。
長崎 sleeperさん的には、まゆさんのDJはどうですか?
sleeperさん めっちゃ好き!なんか、いつもすごく楽しそうにやってるよね。
雪下まゆさん よかった。はい、DJ楽しいです。
長崎 それが結果的に絵にも繋がるっていうのは面白いですね。
sleeperさん まぁ、全部繋がってるからね。
雪下まゆさん そうですね。全部繋がってる。
雪下まゆさんに聞く、りんご音楽祭と松本の楽しみ方
長崎 りんご音楽祭当日はどういう過ごし方をされていますか?
雪下まゆさん りんご音楽祭はもう何年も行ってるけど、友達と一緒に会場のアルプス公園にある大きい滑り台に乗ったのがすごく楽しかった。
sleeperさん ドリームコースターね。
雪下まゆさん そう、ドリームコースター。それに乗ったりとか、鳥の動物園とか。公園自体で遊ぶのも、フェスとは別の楽しみ方としておすすめです。景色がすごくきれいだし、遠くの方からりんご音楽祭の四つ打ちが聞こえてきて、だいぶ不思議な空間ですよ。
sleeperさん りんご音楽祭のときは、松本の街では全く過ごしてないの?
雪下まゆさん 夕方ぐらいに着いて、りんご音楽祭に行って、夜まで遊んでて、夜の部も行って、もうベロベロじゃん。次の日起きて、もう昼過ぎとかだから、またりんご音楽祭に行って……。
sleeperさん で、またベロベロになる。
雪下まゆさん そう、それで帰る。あんまり観光とかはしないね。
長崎 りんご音楽祭以外で、まゆさんが松本にいらっしゃる機会はあるんですか?
雪下まゆさん 基本的にはりんご音楽祭のときがメインですね。たまーに「瓦RECORD」のイベントに出たりもしていたけど。
sleeperさん まゆちゃんは、りんご音楽祭元スタッフのグリコと2人でDJユニットをやってるんだよね。それで「瓦RECORD」閉店前のパーティーにも出てくれた。
雪下まゆさん 普段松本に来るときは、パーティーだけやって「瓦RECORD」の2階で寝て帰る、みたいな感じだったから。今回は2泊3日だったんですが、久々にプチ観光をしたりしてゆっくり過ごしましたね。
sleeperさん 「いつもバタバタだから、今回は観光っぽいことしたい」ってね。王道ツートップの温泉と、定番のお蕎麦屋さんに連れて行って。そういう松本案内、今までちゃんとやってなかったね。
雪下まゆさん 初日はお昼ご飯を食べて温泉に行って、夜はsleeperのイベントでDJをして。昨日は夕方過ぎまで宿で仕事をして、夜ご飯を食べに外に出て……。今日は温泉に行って、この収録が終わったら東京に帰ります。なんかのんびりしてたね。
sleeperさん そんなキチキチしてもね。松本でキチキチしてもしょうがないじゃん。
長崎 まゆさん的には松本はどんな街だと思いますか?
雪下まゆさん 自然と遊び、両方ある街だなって思います。ちょっと行けば秘境みたいな温泉があって、でも駅の周りは深夜までやっているお店があるし、音楽が聴けるハコもある。バランスがめちゃくちゃいい街だなって。すごく住みやすそうだなって思いました。
長崎 たしかに、これだけ街場の遊びができるけど、車でちょっと行けばいわゆる長野らしい自然も温泉もあるし。僕は地元が長野県の上田市なんですが、やっぱり上田と比べても松本はそこが全然違う。羨ましいなと思います。ちょうどいいというか、贅沢ですよね。
雪下まゆさん たしかに。贅沢ですね。
長崎 最後に、今年のりんご音楽祭はどう過ごしたいですか?
雪下まゆさん えー、どうしよう。そうですね、今年は温泉とかにも行きたいですね。車の運転が出来ないので、誰かに連れて行ってもらわないといけないけど。ちょっとまだ未定ですが、新しい楽しみ方を更新できたら。あ、でもドリームコースターはもう1回乗りたいです。
長崎 まさかの楽しみ方でした。
雪下まゆさん あれ、結構楽しいんですよ。おすすめです。
sleeperさん 楽しいよね。長崎くんは乗ったことないの?
長崎 ないです。勉強不足でした。
sleeperさん まだまだだなぁ。今年は乗ってみなよ!
長崎 今年は公園自体も楽しんでみようかな……。それでは、ゲストの雪下まゆさんとsleeperさん、ありがとうございました。またりんご音楽祭当日に会えることを楽しみにしています!

















