りんごMAGAZINE

「フェスってお祭りじゃん?フェスティバルって言ってるのに、つまんなそーなやつがいるのはナシだよ」-りんご音楽祭主催・dj sleeper

長野県松本市で毎年開催される音楽フェス、「りんご音楽祭」。

そもそも、「りんご音楽祭」って?他の音楽フェスと何が違うの?フェスのHow toとは?……etc
主催者のdj sleeperを中心に、その他の運営メンバーや、出演者へのインタビューなどを通じて、りんご音楽祭について紐解いていきます。

お相手を務めるのは、2001年生まれのフェス初心者、長崎航平。根掘り葉掘り、りんごの魅力を探ります。

そもそも主催者「dj sleeper」 って一体何者?

長崎:まずは自己紹介をお願いします。

sleeper:はい、14年間続く野外音楽フェス「りんご音楽祭」と、クラブハウス・ライブハウスに限りなく近い家、パーティーハウス「瓦レコード」の代表をやっています、sleeperです。

生まれは神奈川県で、山梨育ちです。大学生から長野県の松本にやってきました。それからの20年は松本で生活しています。

長崎:こうして聞いていると、sleeperさんって「瓦レコード」と「りんご音楽祭」以外は他の仕事が見えにくくて。それ以外はなにをされてるんですか?

sleeper: 主夫ですね。コロナになって、皆さんご存知の通り音楽業界はモロ打撃をうけまして。嫁が、「もう音楽業界しばらく無理だから、私は正社員やるからあんた主夫やって」と。今日もさっきまで掃除していて、キッチンがピカピカですよ。

長崎:主夫をやりながらも、「パーティー」を主催するのが仕事と。それすごいなぁと思って。sleeperさんって「フェス」が本業に近いというか。

sleeper:そうですね。税務申告も「パーティー業」です。

長崎:それ、あんまり聞いたことないです笑

sleeper:
俺も聞いたことないです(笑)

dj sleeperの名前の由来は?

長崎:ずっと気になってるんですけど、dj sleeperの名前の由来ってなんなんですか?英語で書きますよね?

sleeper:
俺、酔っ払うとすぐ寝ちゃうんで、「そのまんまじゃん!」ってよく言われるんですけど、そういう意味でつけたわけではなくて。高校生の時につけた名前なんですよ。クラブがないくらいの田舎で。「DJやってみよう!」ぐらいの感じで。

長崎:へー!

sleeper:英語の授業中にね、英和辞書を引いてDJ名を決めたんです。好きなアーティストの頭文字が、S、R、Cから始まる名前が多くて、それでその三つのアルファベットを見てて。それでSのところに”sleeper”を見つけて。最初の意味が、まぁ普通に「眠る人」。

長崎:はい。

sleeper:で、次の意味が、「眠れる獅子」。それから、最後に書かれていた意味を読んで、「これだ!」って思ったんですが、競馬ってわかりますよね?

長崎:競馬。わかります。

sleeper:競馬って、たまーにめちゃめちゃ人気ない馬が勝つんですよ。「ダークホース」のことを”sleeper”っていうんです。

長崎:
へー!初めて知った!

sleeper:学生の時って、おもしろい・スポーツ万能・イケメン・勉強が超できる、くらいしか活躍できるベクトルがないじゃないですか。

長崎:たしかに。

sleeper:俺は、あいつらより絶対できるなにかがあるはずってなぜかずっと思ってて。で、DJを見つけた時に「これだ!」と思って。誰も期待してないけど絶対俺やれる!!!俺はダークホースだって。

長崎:じゃあスリーパーって、「眠る」という意味よりは、追い込んで最後抜き去るぞっていう。

sleeper:あいつ寝てるなまけものだな、って思われてるかもしれんけど、やるときやるんだぞって。

長崎:自分の中では温存してるぞ、くらいの。

sleeper:いや、そんな器用に温存はできないんだけど。万人ウケはしないけど、俺にも、みんなよりできる何かはあるぞってことだね。そういう思いが名前の由来。

「りんご音楽祭」の特徴って?

長崎:そんなdj sleeperさんが主催しているりんご音楽祭の話をここから聞けたらいいなと思うんですが。りんご音楽祭は、今年で14年目なんですよね。

sleeper:そうですね、始めたのは26歳ぐらいの時かな。2009年ですかね。ずっと、松本市のアルプス公園でやっています。

長崎:
他の音楽フェスと比べた時のりんごの特徴ってなんなんですか?

sleeper:え、逆にどう思います?

長崎:正直まだ僕は一回も「りんご音楽祭」に行けていないんです。

sleeper: だからこそ、行ったことない人のイメージがどうなってるか知りたい!

長崎:「りんご音楽祭」と聞いて、一番パッと思い浮かぶのは、やっぱり「ブッキングの力」。ここにいけばきっと数年後の日本の音楽シーンにいるアーティストたちが見られるんだろうなって。

sleeper:なんか、言わせてるぐらい模範解答だね。。

長崎:「りんご音楽祭」を語る上で、「ポップ」って言葉が、よく出ていて。sleeperさん的に、ポップに対する思いは強いんですか?

sleeper:そうですね。そもそも「りんご音楽祭」を立ち上げた時、日本のJ−POPがどういう状況だったかというと、オリコンチャートのトップ10が、AKB48、ジャニーズ、EXILE、この3つのグループがTOP10を全部占めている、みたいな。

長崎:あぁ〜、なるほど。

sleeper:俺もう、コレはないぞ!って思ったね。別に、全くもってそのアーティストたちが嫌いってわけではなくて。バランスが悪いのはよくないなって。

sleeper:俺がJ-POPを聴いていた時代は、スピッツがいたり、椎名林檎がいたり、ミスチルもいるけど、山下達郎が作詞作曲した曲をKinKi Kidsが歌ってヒットしていた。なんか俺は、「いろいろ」なアーティストがいない状況に、J-POPって今最悪じゃん!と思って。

長崎:そういう状況が、「りんご音楽祭」を始めた背景にあったと。

sleeper:おれは、自分が好きなような音楽が「J-POP」になったらいいなっていう気持ちで「りんご音楽祭」をやっていて。だから、かつて「りんご音楽祭」に出ていたミュージシャンが人気になって、活躍しているのはうれしい。

「りんご音楽祭」と「アルプス公園」

長崎:ほかにりんごの特徴ってありますか?

sleeper:会場の「アルプス公園」は、松本市民が普段から使う公園で。とにかく会場がいい。

長崎:sleeperさんもよく行かれるんですか?

sleeper:うん。友達と公園にお昼食べにきて、「ここフェスできんじゃね?ぴったりじゃん!」って話してたら、たまたま管理会社の車が通りがって。

長崎:えー!タイミング良い!

sleeper:それで、「ここって野外音楽フェスとかってできますかね」って話しかけたら、「ここ、せっかくステージがあるのに音楽フェスをやっていないのがもったいないよね、やってみたいねって話してたんですよ!」って言われて。それで「絶対やりましょう!」って。

sleeper:あと俺「フェス」がそもそもすごく好きで。出演者としてもDJとしても参加していた身として、「フェス、すごいいいのにここがすごい嫌だな!」と思っていたことがあって。

長崎:
嫌だったこと?

sleeper:フェスってお祭りじゃん?全員参加したくて参加してるはずなのに、ただバイトで来ていてつまんなそーな顔している人とかもいるの。実際そう思ってるかはわからないけどね。それがどうしても許せなくて。フェスティバルって言ってんのにつまんなそーなやつがいるのはなしだろって。

長崎:「祭り」なのに。

sleeper:ほんとに、好きで参加してる人しかスタッフをやらないで欲しいし、出演もしてほしくない。「みんな」で作るものだから。大人の事情はわかる。わかるんだけど。でも俺は、出演者もスタッフも含めてみんなで楽しみたいっていう思いでやってる。

自分が行きたい場所を作ってるだけ

長崎:「こうだったらいいのにな」を詰め込んで、自分にとって一番いいフェスを作っている?

sleeper:そうだね。基本的に自分が行きたい場所作ってるだけだから。松本にも、俺がジャストで遊びに行きたい店がなかったから「瓦レコード」を作ったし。俺が行きたい・なんの不満もないフェスがなかったから作ったって感じかな。

sleeper:大規模なフェスが当時どうだったかっていうと、とにかくハードなの。都市型のフェスは超暑いし、逃げ場も少ない。山の中でやる大規模なフェスは、行くまでが超大変。体力がいる。

長崎:はいはいはい。

sleeper:俺は毎週クラブとかライブハウスで遊んでて、そういうところにいるおしゃれな女の子とかに「フェス行こうよ」って言っても、誰も来てくれなくて。結構ね、フェスに行く奴は本当の音楽好きじゃない、みたいな風に思われていた節があって。

sleeper:ブッキングに関してもそうなの。人気がぐいぐい来ていて、ワンマンでもハコが埋まるけど、まだどこの事務所にも所属していない、みたいなアーティストはいっぱいいるのに、有名なミュージシャンと事務所が同じだとか仲がいいからってだけの出てる若手が野外フェスにはいっぱいいて。そうなってくるとなんか「ニセモノ」感あるじゃん。

長崎:あぁ〜。

sleeper:だから、毎週のようにライブハウスとかクラブで遊んでる人たちにとっては、「今イケてるやつ出てねーじゃん、野外フェスって」みたいな。

sleeper:あと、「ハイヒールで行けないじゃん」って。今はおしゃれなアウトドア用品も出てきたけど、当時はそうじゃなかったんだよね。クラブに行くような、かっこいい・かわいいファッションでいけるフェスっていうのがなかったの。

長崎:あぁ、なるほど!

sleeper:とにかく俺は「楽なフェス」を作ろうって。結構それは大きくあったね。あとフェス行っててやだったのが、トイレがとにかく汚くって。

長崎:はいはいはい、仮設トイレみたいなのですよね。

sleeper:もうね、トイレは掃除するのを諦めてて。フェスは。どうなってるかっていうと、汚くなって使えなくなったらバツ印で塞ぐの。俺はとにかくそれが嫌で。お客さんの過ごしやすさとか、そういうのまでまだ行き届いてなかったんだよね野外フェスは。

松本の街から近い、楽ちんなフェス

sleeper:それから、「りんご音楽祭」は「街」から近いから、「ちょっとつらいな」と思ったらすぐホテルに帰れる。蕎麦食べに昼に街に出て、また帰ってくる人とかもいるの。

長崎:蕎麦を食べに!そんなに気軽なフェスなんてすね。

sleeper:そもそも「フェス」っていうフォーマットだと「行けない」人がいっぱいいた。特に14年前は。俺はそれがもったいないし、やだなって思ってた。

長崎:たしかに、もったいない。

sleeper:「楽に過ごせる」、「街にも近くてトイレも綺麗」、っていうことは「りんご音楽祭」を作る上ですごく気にしたね。

「りんご音楽祭」とコロナ禍

長崎:なるほど。ありがとうございます。これから、もっと詳しくsleeperさんからお話聞いていきたいと思っていて。「りんご音楽祭」って結構HIP-HOPアーティストが多いのはどうしてなのかとか。

sleeper:あ、それはさっきちょっと言ったね。俺は特に意識してHIP-HOPをピックアップしてるわけじゃなくて、クラブシーンの「今」を反映してるの。

長崎:なるほどなるほど。

sleeper:だから、俺がすごいことしてたんじゃなくて、遊んでただけなんだよ。

長崎:
へー!その辺もまたおいおい詳しく話を聞いていきたいです。それこそコロナについてsleeperさんはどう思ってるのかとか。

sleeper:そうね。コロナ中も中止しないでフェスを開催してたから。

長崎:
掘っていきたいです!どうですか、こっから他に、これ俺は話したいよってことはありますか?

sleeper:
今年は、コロナ前の2019年に極力規模を戻そうかなと思ってて。各所と相談しつつ今進めているところです。

長崎:2020年、2021年よりは規模を戻しつつ、でも対策はしつつ進めていくということで。

sleeper:そうですね、その2年間は規模をめちゃめちゃ絞ってやったから。今回は、コロナ前の「りんご音楽祭」が好きだった人がきても、「あぁりんご音楽祭きたな」って思える状況にするべく何ヶ月も前から動いているので、期待してて欲しいなと思います。

長崎:なるほど、ありがとうございます!次回もよろしくお願いします。

今回のポッドキャストの収録は、sleeperさんのご自宅で行いました。

お子さんが帰ってきて、sleeperさんが夕飯の支度をされている間、sleeperさんの妻であるリョナさんにもお話を伺うことに。

長崎:sleeperさんは「主夫」をされていると伺いました。お家ではどんな感じですか?

リョナさん:以前に比べて、はるかに家を把握できるようになりましたね。前までは、全国各地を飛び回っていたので、ほとんど家にいなくて、「家のことは知らない」状態でした。

長崎:家にいるようになって、変化はありましたか?

リョナさん:彼が「主夫」になって家にいるようになって、逆に私が家から出るようになって立場が変わりました。お互いに見える景色が変わったんです。

私は、働き出してから「家のことをなにも頑張らない」って決めたんです。仕事と家事を二週間やってみて、「これは続かないからがんばるのやめた」って。どれだけ手抜きしたって、生きていけさえすればいいじゃないかって。そしたら彼が「どうしても味噌汁だが食べたい!」って。

長崎:へー!

リョナさん:食べたいんだったら、自分で作って?っていうところから、台所に立つことに抵抗が無くなったんですね。そうして、今まで家の中で何が行われていたのかわかってきて。

長崎:はいはいはい。

リョナさん:家でも、外の仕事も一緒だって気づいたんですね。彼の、「アガるようにしたい」って気持ちが家の中に向いた。

長崎:なるほど〜。ありがとうございます。sleeperさんの本業が「パーティー業」と「主夫」というのはどう思っていますか?

リョナさん:どうも思わないです。「業」がなにかはどうでもいいんです。自分で決めて、自分のやりたい自分のできることで食っている。それが全てですね。

長崎:リョナさんにとって、「りんご音楽祭」の特徴はなんですか?

リョナさん:圧倒的に行きやすく、遊びやすいことですね。キャンプがいらない、装備がいらない。いつも通りの服装でいけるし、日帰りで行ける。「明日仕事だ!このアーティストだけ見て帰ろう!」くらいで行けちゃう。

長崎:あとの予定を気にしなくていいんですね。

リョナさん:それに、アクセスもいいです。レンタサイクルを使ったり、歩いて会場まで行く人もいるくらいです。タクシーも拾いやすい。なにより、アルプス公園独特の空気がいいですね。過ごすのが楽です。

長崎:先ほどsleeperさんから伺ったお話とぴったり一致していて驚いています……。ありがとうございました!

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